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2020年1月23日 (木)

鎖骨変形と労働能力喪失

 交通事故の訴訟において、後遺症の中で鎖骨の変形は、保険会社側からは、「変形しているだけであり、労働能力には影響はないため、逸失利益はない」という主張や、労働能力の喪失率は14パーセントもない(通常鎖骨変形は12級なので)という主張が出る。また、喪失期間についても5~10年程度であるという主張がされることも多い。

 一般的にいうと、どれだけ労働能力が低下するか、あるいは全く低下していないかは、鎖骨変形の具体的内容によるし、症状による。喪失期間も同様である。なので、基本的に私はそれらを検討した上で、多くは訴訟提起をしていて,保険会社のいいなりにはならないし、訴訟をして保険会社の主張から大幅な増額がされたケースも何件かある。
 骨癒合は問題がないが、変形してくっついて、外観上は問題のないような事例と、たとえば、肩鎖関節脱臼があり、鎖骨の末端が身体から飛び出しているようなケースとでは違いが出てくるものである。この類型では、昔は手術が推奨されていたが、現在は手術をすることに医学的エビデンスはないと書かれている医学書もある。
 裁判例を見てみることにする。私が調査した範囲なので、網羅的でないことや、誤った引用をしている可能性がないではないことを予めお断りしておく。

1、鎖骨の変形について、労働能力の喪失利率について、14%よりも低い割合で認定するか、喪失期間を限定したものとして、以下のものがある。
 ①大阪地裁平成15年7月16日判決(交民集36巻4号930頁)
  同事件は、自賠責の後遺症の認定期間を徒過したため、自賠責の認定を受けられていなかった事案であるが、医師の「裸体では右鎖骨の変形は認められる」という意見から鎖骨変形を認定し、同部位に運動時の疼痛がある事案で、労働能力喪失期間を3%、喪失期間を10年とした。
   その理由として、労働能力の喪失率は14%であるものの、原告の降格が後遺症と因果関係あるものか不明であること、給与面での不利益な扱いを受けていないところ、財産上の不利益を被っていないとした上で、減収がないことについては原告の努力によるものであるとして、現実の減収はないものの、今後被る不利益の程度としては、3%、10年間としたものである。原告の職業は電気課員であった。

②静岡地裁平成18年1月18日判決(自保ジャーナル1632号)
 62歳離職後5か月の女子について、「左鎖骨の圧痛も左肩関節の可動域制限もない」と医師から診断されているため、肉体労働は考えがたいということから、労働能力の喪失率を9%とし、労働能力喪失期間については「左鎖骨の変形という将来的な改善が見込めない」として、特段の限定を加えなかった。

③神戸地裁平成25年9月5日判決(自保ジャーナル1910号)
 左鎖骨の変形障害にとどまり、派生的に生じるものである左肩の痛みについては経年により緩和する可能性が高いと考えられること、左肩の関節可動域制限は軽度のもので、症状経過にも鑑み、労働能力に影響を与えるものとは考えがたいとして、労働能力の喪失率を10%、喪失期間を10%とした。
 治療経過の中で、腕立てが100回できるようになっていたり、サーフィンをしてパドルできたなどと医師に報告していた事案であった。

④東京地裁平成23年10月12日判決(判例秘書登載)
 右鎖骨遠位端骨折後、右鎖骨の変形障害と右肩鎖骨関節部の強い圧痛等の後遺障害を残している事案について、後遺障害は12級5号とした上で、被害者の職業がデザイナーであることから、当初の20年間は労働能力喪失率を14%、その後の11年間は5%とするのが相当とし、保険会社側の労働能力に影響するのは右肩痛という神経症状にとどまるから、労働能力の喪失率を10%、同期間は20年という主張を排斥した。
 当該事案では、労働能力の喪失期間については限定されていない。

⑤大阪地裁平成27年3月30日判決(判例秘書登載)
 鎖骨変形そのものから直ちに労働能力の喪失を認定することはできないとしたものの、鎖骨変形による派生障害として左肩の痛み及び脱力感があるとして、5%の労働能力を喪失したものとし、労働能力喪失期間については制限をしなかった。

2、鎖骨の変形について、12級のとおり労働能力の喪失率を14%とし、労働能力喪失期間について限定を加えなかった裁判例として、以下のものがある。
①東京地裁平成13年10月26日判決(交民集34巻5号1424頁)
 同事件は、小学校で給食を担当する57歳女子教職員について、「左肩鎖骨変形の後遺障害が残存し、そのため、左肩の痛みや動きの制約、それを補うことによる右腕、右肩の負担、原告の仕事が給食調理作業であり重い物を持つ等少なからぬ負担を強いられることを考慮すると、健全に身体状態に稼働する場合に比べて相当程度稼働を制約する状態を生じさせていることが認められるのであって、原告はこれを克服するために、現に、原告は従前通りの仕事をこなしていくために早朝出勤をしたり、運搬作業の回数を増やしたりするなどの努力をして職務を遂行している」ことを考慮し、労働能力の喪失率は14%が相当とされた。

②東京地裁平成16年12月21日判決(判例秘書登載)
 左鎖骨が変形したために、同部位に鈍痛・圧痛があるほか、左手で重い荷物を持てなくなったことから、労働能力喪失率、喪失期間について限定を加えなかった。

③東京地裁平成20年11月25日判決(判例秘書登載)
 右鎖骨の変形を残す被害者について、14%の労働能力喪失率とし、期間についても制限を加えなかった。

④東京地裁平成22年7月21日判決(判例秘書登載)
 自営業(てんぷら屋)を営む被害者について、鎖骨変形と疼痛を残し自賠責では12級5号が認定された事案について、疼痛の原因について、骨折の遷延治癒、過剰な仮骨形成に伴う変形又は肩関節の拘縮により生じている可能性があり、疼痛を主体として考えても、画像上の所見から疼痛の残存は右鎖骨の著しい変形という器質的損傷が原因となっているとして12級13号を認定すべきとし、労働能力喪失率は14%、労働能力喪失期間にも限定を加えなかった。
 保険会社は、5%、5年を主張したが、これを排斥している。

⑤横浜地方裁判所平成25年1月31日判決(自保ジャーナル1899号)
 保険会社の鎖骨の変形が労働能力に影響を与えないという主張に対し、「鎖骨という部位からして、左上腕の運動全てに影響があるものと推認される」とし、現に「左肩の回旋等に違和感や肩胛骨付近の痛みがあることが認められる」ことから、14%とし、存続期間は7年程度という保険会社の主張に対しても、「そのような医学的知見はない」として、喪失期間についても限定を加えなかった。

⑥福岡地方裁判所平成26年8月28日判決(判例秘書登載)
 MRI画像によって他覚的に確認可能な左鎖骨遠位端亜脱臼が見受けられ、ぴりぴりと痛む左肩鎖骨関節痛、後遺障害に該当しない程度の左肩稼働域制限が残った事案で12級を認め、保険会社より労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は5年から10年程度という主張がされたことに対して、「原告の後遺症は、単に鎖骨に変形があるだけでなく、他覚的に視認可能な左鎖骨遠位亜脱臼状態により、左肩鎖骨関節痛、左肩稼働域制限などの実害が生じているところ、その実害とみられる亜脱臼状態が10年以内に解消される具体的見込みはない」ことから、労働可能な期間、14%とみるべきであるとした。

 裁判所は、やはり、器質的損傷があるか否かや具体的職業における不都合を勘案して労働能力喪失割合と喪失期間を決めているように思われる。
 なので、鎖骨変形については、保険会社の主張をそのまま受け入れず、様々な角度から検証した上で示談をするか否か、訴訟移行をするかどうかを決めた方がよいように思っている。
 鎖骨変形に関して、今依頼している弁護士が示談をした方がよいと言っているとして、「これで示談した方がよいかどうか」ということでセカンドオピニオンを求められたこともあるが、時として、こうした枠組みを検証せずに示談を受け入れようにしている事例もある。
 個別具体的な検討が必要である。

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