弁護士会の活動(当番弁護士など)
弁護士会の活動としては、以前お話した委員会活動のほか、当番弁護士などの活動もあります。当番弁護士は、被疑者の負担なしに1度だけ弁護士を弁護士会が派遣する制度で、過去にはなかったものですが、福岡県弁護士会で導入後、全国に広がっていったものです。
当番弁護士として出動すると、被疑者には経済的負担がないのですが、当番として出動した弁護士には日当と交通費が支払われます。この当番弁護士の日当と交通費がどこから出ているかというと、国から出ている訳でも何でもなく、全国の弁護士が納めた会費や、各弁護士会が地方公共団体から受けている法律相談委託料、弁護士会で行っている法律相談料など、弁護士が働いたお金の中から支払われています。
いわば、弁護士が、「手弁当」でやっているのです。タコが自分の足を食べているようなものです。当番弁護士は、逮捕され、しかも知り合いの弁護士もおらず不安になっている被疑者にとって非常に有益なため全国の弁護士の努力によって広がりを見せていますが、これは弁護士の努力によって行われているもので、どこかから補助を受けているということはありません。
さらに、京都弁護士会では、少額の事件でも弁護士が依頼を受けやすくするように、「少額事件補助」という制度があります。訴額が50万円以下の事件でも、最大5万円を弁護士会から担当弁護士に補助して、少額の事件をどんどんやりましょうという制度です。担当弁護士に支払われる最大5万円の追加補助も、京都弁護士会の会員の会費や会員が法律相談をして稼いだ委托手数料などから支出されています。これもタコがタコの足を食べているのと同じです。ちなみに、京都弁護士会の会費は月額5万円程度です。
以上のように、弁護士ないしは弁護士会は、自分の犠牲のもと公益活動を行っているのですが、これまで弁護士はこれらの活動について、自分たちの犠牲のもとに行っているのだということはあまり主張してきませんでした。これは、そうしたことを言うことは、弁護士として「潔くない」という価値観があったからと思います。
そのため、弁護士に対するイメージが悪いところもあるようですし、本当に悪徳弁護士もいるとは思いますが、私は大半の弁護士は頑張っていると感じています。これはひとえに広報不足というか、自分たちのがんばりをあまり世間にアピールしてこなかったからです。
たとえば、大規模消費者被害事件などが起こり、弁護士が弁護団を組んで仕事をする場合、被害者が多いから費用もたくさん取っているのだろうと思われるかも知れませんが、大半の事件では、何年も何年もかかり、打ち合わせも何回も何回も行って解決したとしても、弁護士の手元に残る報酬分は、1人5万円くらいということが大半であり、引き受けること自体が赤字な事件です。大半は実費で消えてしまいます。そうであれば引き受けなければ良いと言われるかも知れませんが、それでは誰がこうした消費者被害を救済するのかということです。それは、弁護士以外にはあり得ないので、下手をすると手弁当になるような事件でも、人権救済のために行ってきたという歴史的経緯があります。
弁護士が大増員され、過当競争社会となった場合、公益的活動やこうした消費者被害事件は誰もやらなくなるのではないかと思っています。それよりも、儲けがある事件に走り、社会的弱者の事件などを手がける弁護士がいなくなり、消費者被害を巻き起こしている会社などに対して被害救済を行うことが出来なくなるように予想しています。
現在の大増員論は、むしろ、経済界(利益だけを追求したい経済界にとって、弁護士は目の上のたんこぶ)が、弁護士の弱体化を望んで行っているという疑いを私は持っていますし、法科大学院設置を堅持したい大学が、人数を底上げしろと叫んでいるだけのように聞こえてしまいます。
中坊公平氏は、詐欺事件の責任を取り、弁護士を廃業されましたが、大増員にゴーサインを出した張本人でありますし、整理回収機構も種々の問題を起こしていますから、その責任は重いと考える今日このごろです。
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コメント
私も、中先生と殆ど同じ目的でブログを始めました。「弁護士とOOO」のシリーズ化も考えています。
弁護士は、もっと弁護士の実像を世間の人に知ってもらう努力をすべきだと思っています。
弁護士大増員反対については、愛知県弁護士会の会員は頑張っている方だと思いますが、いくら頑張っても東京や大阪の圧倒的多数に負けてしまい、無力感を感じている会員が多いと思います。
投稿: M.T. | 2006年5月 4日 (木) 12時27分
M.Tさんコメントありがとうございます。
先生のブログをいくつか拝見させていただきました。
4月28日の法律新聞と、その次の号に法曹人口問題に関する私の投稿が二回にわたり掲載されますが、今我々弁護士が置かれている危機的状況を知らない人もまだまだいます。
そのため法曹人口問題を考える会を京都で立ち上げました。この会も設立したばかりで方向性を議論しているところではありますが、具体的な結果を獲得すべく活動を開始しています。
東京大阪でも危機意識を持っている人は多いと思いますが、どうしてよいか分からないのだと思います。
何が出来るか分かりませんし、社会の理解を得つつやっていかないと弁護士の実像が分かってもらえないままいいようにやられてしまうという予測をしておりますが、個別に反対しているだけではなく、まず弁護士の中で同様の問題意識を持つ人で情報共有したいと思っています。
1月から活動を開始して、少し調べただけでいろいろなことが分かってきています。
もし、先生もよろしかったら加入していただければ幸いです。
私の事務所のホームページにリンクが張ってある法曹人口問題を考える会のホームページに参加要領が貼り付けてあります。
名古屋で同じような考えの人がいるのであれば、ぜひ加入していただきたいと思っています。
基本はメーリングリストでの議論で、月1回京都弁護士会で会議をしています。
私も医療過誤は患者側(まだまだ件数は少ないのですが)、消費者被害事件は弁護士になってから多数取り扱ってきたという思いがあるので、被害者を食い物にするような弁護士が現れることだけは避けないといけないと思っております。
先生のブログにも勇気づけられました。
投稿: 中隆志 | 2006年5月 4日 (木) 21時51分
中先生
ありがとうございます。
法曹人口問題を考える会への参加については、一度考えさせて頂きます。
名古屋には法曹人口問題についての論客がたくさんおられます。議論は深まっているのですが、何をしたらいいのか、となると足踏み状態です。
福島県産婦人科医逮捕事件では、医師が結束して政治力を発揮し、マスコミ対応、インターネット対応をしているのと比べて、弁護士会は先日のNHKのクローズアップ現代を見ても情けない限りです。
投稿: M.T. | 2006年5月 5日 (金) 08時25分
よろしくご検討下さい。
この会は、みんなで議論してどうしていったらよいかを検討し、情報発信して、目標を獲得しようとしています。
個別に意見発信しているだけでは足りないという問題意識です。
出来たら韓国調査くらいはしたいと思っています。
また、京都弁護士会では、プロジェクトチームが出来ました。私は副座長です。
京都弁護士会としても、当面の活動方針を近日中に議論する予定です。
それとは離れた任意の会である法曹人口問題を考える会は、弁護士会よりも自由度が高いので、いろいろとやれると思っています。
先日、任意の会の方で司法記者と協議した際、好意的に議論できました。
たくさんの叡智の結集が必要だと思っております。
投稿: 中隆志 | 2006年5月 6日 (土) 11時54分
京都弁護士会ではプロジェクトチームができているのですか。さすがですね。
愛知県弁護士会では、司法問題対策委員会という委員会が法曹人口増大問題を扱っています。私はその副委員長です。
昨年は、「検証司法改革ーこれで司法は良くなるのかー」をテーマに東大教授広渡清吾氏の講演や討論会、「ロースクールは日本において成功するか」をテーマに鈴木仁志弁護士の講演とロースクール講師の弁護士らのパネルディスカッションを開催しました。これらの講演はすばらしい内容で、いずれもテープに録音し、反訳してしかるべきところに配布する予定だったのですが、弁護士会から予算がもらえず、今のところ凍結状態です。
また、これまでに司法記者との懇談会も何度も開いています(理解は示されていますが、なかなか記事にはしてくれません)。
議論は深まっても、これをどう生かしていくかが課題です。
本来は、日弁連が対外的にアピールしていくべき問題だと思います。
私は平山会長の立会演説会にも出席しましたが、「3000人前倒し」をよしとするようなご演説ではありませんでした。しかし、閣議決定後も何ら日弁連の反応はありません。
あれだけ会長選では増員問題を若手にアピールしておりながら、一体どうなっているのでしょう。
昨年は愛知県弁護士会では改革推進派が「都市型公設事務所の設置」を提案し、執行部は常議員会へ議案提出までしました。しかし、多くの会員の反対があって、常議員会での議決は見送られました。私は、この反対運動に参加しました(そして、かなり疲労しました)。
ブログを始めたのは、この「うさばらし」の意味もあってのことです(しかし、結構な反応があって、かえって疲れるのですが・・・)。
京都弁護士会では、中先生のような若手の先生方が頑張っておられることは心強い限りです(名古屋では若手がこの問題で頑張っているとはいえない状況です)。
もし、名古屋でお力になれることがございましたら、また、私たちがどのような活動をしていったらいいのか、よい案がございましたら、ぜひお教え下さい。
投稿: M.T. | 2006年5月 7日 (日) 16時01分
京都では、任意の会である法曹人口問題を考える会(何名か他会の先生も加入してくれています)と弁護士会としてのプロジェクトチームが出来たばかりの状況で、議論はこれからですが、議論したことを生かすために、そろそろ大局的目標を設定しようということになっています。
目標を設定すればそこに至るのに何をすればという議論が出来ると考えるからです。
今年の京都の会長も任意の会にも参加されており、会長がかなりやる気です。
日弁の関係でいくと、中央任せではだめなので、地方からどんどん日弁連に意見を上げていく必要があるだろうと思っています。
過去の京都弁護士会の理事者と話をしていると、今の日弁連は課題が多すぎて、日弁の理事者が処理をするのに精一杯でその間に周辺からいいようにされている感があります。
日弁理事会で宅急便で送らないと持って帰れないくらいの資料が毎回出るらしいです。それも当日が多いようです。
あと、名古屋は非常に進んでいますね。京都でもシンポジウムをしようという話がありますが、名古屋の方が進んでおり、汗顔の至りです。
素晴らしいですね。
可能であれば、一度そのテープ録音と資料を拝聴・拝見したいものです。
何とかならないでしょうか…。
法曹人口問題を考える会は会員からの寄付である程度予算はあるのですが…。
せっかくいいシンポをしたのに、これを反訳し、活字にするのに予算がつかないなんて京都では考えられません。
京都での議論の状況はまた明日会議があるのでお知らせしますが、議論の深まりに関しては名古屋の方から講師を呼ぶ方がよいくらいの印象を持ちました。明日京都の理事者を交えた会議があるので話をしておきます。
また、弁護士会を離れても、名古屋の先生方とも一度懇談の機会が持てないかとも思います。
その節はどうかよろしくお願い致します。
インターネットはいろいろと問題もあるけれどこうした情報発信が出来るので、いろいろなつながりが出来るのは嬉しい限りです。
投稿: 中 隆志 | 2006年5月 7日 (日) 23時06分
中先生
ありがとうございます。
テープや資料の件などは今度の委員会で話をしてみます。
京都弁護士会はやる気がありますね。その行動力はうらやましい限りです。
名古屋は、情報やら知識やら主張やらは一杯あるのですが、(私も含めて)年齢がいっているせいか、行動力が伴いません。
先回の委員会では、私は「出版が無理なら、委員会でブログでも作って、講演の内容や意見などを公開してみたら」と提案しましたが、会が認めてくれるかどうか。
委員会の結果などにつきましては、改めてご報告させて頂きます。
投稿: M.T. | 2006年5月 7日 (日) 23時22分
法曹増員問題は反対派委員が一人もいない
会議でいよいよ9000人実現が時間の
問題になってきていますね。
たとえ大増員してもその影響が深刻に
なり弁護士の売り上げが激減するまでは
(9000人ペースでも)四、五年かかり
3000人ならおそらく10年と少しは
持つため、弁護士の引退年齢を平均
65歳とすると、もう、50歳以上の
弁護士の先生には関係がないため、全く
組織的に法曹界は活動できていない印象が
あります。
この種の問題は「自分がやらなくても誰かが
やってくればただ乗りできる」フリーライド
問題の典型なため、ブログで意見を言う程度
はさておき、コストのかかる実効的な行動
が弁護士の方からなかなか起こってこない
というのが非常に深刻な影響をもたらして
いるとも思います。
政策決定をしている中枢に組織的にアプローチ
できなければ、9000人実現はもはや
目の前にあると言っても過言ではないと
思います。
投稿: ウォッチャー | 2006年5月10日 (水) 16時26分
ウォッチャーさんのおっしゃるとおりです。
「フリーライド」問題とはまさに名言。
もう若くはない私たちではなく、これから何十年も弁護士生活を送ることになる若い弁護士たちが立ち上がるべきなのではないでしょうか。
もう若い人たちが「ライド」できるような中堅以上の弁護士層や弁護士組織(日弁連はもとより)はないと思った方がいいでしょう。
投稿: M.T. | 2006年5月11日 (木) 18時15分
ウォッチャーさんのおっしゃることは確かに正しいですね。そのような情勢なので立ち上がったのですが、なかなか若手も動きが鈍い。
頑張って無限定な増員を阻止した場合、何もしていなかった人は「俺も実はそうやと思っていた」というくらいなのでしょうね。
そう考えると虚しくなりますが、他の人権擁護活動もやらない人の負担がこちらにのしかかるという状況があり、同じようなところがあるので、今に始まったところではないかと考えてはいますが。
あと、東京ではロースクールに関わっている弁護士が相当いて、ロースクールの合格者を確保するためにものすごい努力をしているので、いわば合格者増員論を後押ししているので、日弁連もまた一枚岩ではないのです。
増えたあとどうするかはそのロースクールで教えている先生たちにとってはどうでもよいのでしょうね。
ちなみに司法過疎はアメリカでもあり、大増員時代になっても、東京大阪集中型は変わらないのではないかと言われています。
東京第2弁護士会は、公益活動を会員に義務づけて一定以下の公益活動しかしない会員に年間12万円の罰金制度を作ったのですが、800人が公益活動をするよりも支払った方がましとしてお金を支払っているようですね。
東京は大手渉外事務所を中心に人が入って来ているので、弁護士会財政も潤沢らしいです。
京都は消サラ相談を無料化するなど涙ぐましい努力をしています。私も無料化推進にかなり関わりましたが。
投稿: 中隆志 | 2006年5月11日 (木) 21時47分
初めまして
遅ればせながら、東京で「若手弁護士の将来を考える会」
(http://www.wakaben.jp/)なるものを立ち上げさせていただき、法曹人口問題を含め、若手弁護士の意識の共有並びに弁護士会への働きかけが出来ればと考えております
因みに、事前にアンケート調査を行い、回答数こそ少ないですが集計結果をHPにアップしておりますので、是非当サイトへもお立ち寄りください
投稿: wakabenn管理人 | 2008年7月17日 (木) 16時08分
当番弁護などは税金から援助すべきですよ。
国選は税金から出るんだから、当番も税金から出して悪いとは思いません。
今までのやり方だと公益活動費を他の依頼者が事実上払ってるようなものじゃないですか?
投稿: ながと | 2009年8月25日 (火) 13時40分
ながとさんが言われる批判は昔からありますね。
よそで稼いで好きなこと(公益活動)をすると。
そもそも国がすべき事業を国がしないから、弁護士会がしているのであって、その過渡期だということをいう人もいます。
被疑者国選が勾留段階からしかつけられないのが問題で、被疑者国選が逮捕段階からつけられるようになれば、相当数当番の出動は減るでしょうね。
そこから私選受任すれば当該弁護士の利益にもなるというところもありますが。
投稿: 中 隆志 | 2009年8月26日 (水) 10時27分