« 弁護士会の活動(当番弁護士など) | トップページ | 司法試験合格者大幅増員論は実体がない »

2006年4月20日 (木)

司法試験に合格しても就職がない時代がもうすぐやってくる

 平成18年3月31日に閣議決定された内容によると、「司法試験合格者3000人体制を可能な限り前倒しすること」「3000人以上の増員についてもさらに検討」「ロースクールを出た人のたとえば7割~8割が合格出来るようにすることも検討」という大増員へ向けたものになっています。
 現在の司法修習生は、59期生ですが、「就職先がない」ということで、10月から弁護士登録するにもかかわらず、まだ就職先が決まっていない人がかなりいるようです。
 来年は、60期と、いわゆる新司法試験に合格予定の新1期生がだぶって就職の時期になるので、司法修習が終わっても、大量の就職浪人が出る可能性が極めて高いと思っています。
経済界や内閣府の諮問機関の規制改革ワーキンググループは、「市場原理だけで法律家の人数が決まる。弁護士として自由競争をして飯が食えない奴は淘汰される」という論理で大増員を唱えています。
また、ロースクールをせっかく作った大学側も、合格者を出せないロースクールが淘汰されては大変だということで、司法試験の合格者の大幅増員を唱えています。
これらは完全に自己の利益のみを追求する圧力団体に過ぎず、日本の法曹会の未来など「なーんにも」考えていません。
 本当に法律家の需要があるかなど、全く検証もされていませんし、淘汰の過程でどのような事態が起こるかも考えずに、皆自分の利益だけで物を言っています。
 ちなみに、日本の裁判所の訴訟件数はやや減少傾向にあります。弁護士の仕事の場は最終的に裁判所ですから、裁判が減っているということは、そんなに需要がないことの表れではないかと思います。
さらに、合格者が3000人となっても、裁判官と検察官の人数は増えないことがほぼ確定しているので、100名ずつが裁判官、検察官になったとして、毎年2800名が弁護士になることになります。
 では、実際、2800名の弁護士を弁護士会全体で受け入れられるかと言えば、全くそんな素地はありませんし、1500名の合格者時代でも就職が厳しくなってきているのです。
規制改革ワーキンググループの座長のオリックスの宮内社長は弁護士嫌いですし、無責任なロースクールの圧力は、ただ単に多くの弁護士資格のある就職浪人を産むだけでしょう。それなのにまだ大増員とはあきれかえります。
 法学部の既習者で2年、修習に1年の時間を取られ、さらに修習が終わっても就職先がないような制度のもと、どれだけの人材が「弁護士になろう」としてロースクールに進むかは極めて疑問です。
 ロースクールには多額の学費もかかるのです。
単なる圧力団体の無責任な発言や主張で苦しめられるのはロースクールの学生達ですし、いきなり独立しようとしても、仕事もないのが普通です。そうした仕事のない弁護士には、事件屋が取り入って、経験のない弁護士など、事件屋にいいようにされてしまうでしょう。
最近の西村議員の不祥事を覚えておられますか?
また、弁護士は依頼者のお金を預かりますから、経済界がいうところの「淘汰」の過程で、多くの顧客の預り金が横領されるのではないかという懸念もあります。
 最近の建築士の不祥事も覚えておられるでしょう。

 規制緩和規制緩和をお題目に唱えている社会がどれだけの歪みを産むのか。ライブドア事件やBSE問題は、何ら政府に反省材料を与えていないのでしょう。

 もちろん弁護士の方も業務努力はしていますが、競争競争ばかりを強調すると、その過程でおかしな弁護士に依頼した人の受ける損害についてはどのように考えているのでしょうか。あまりに数ばかり優先して質が担保されないと、いわば、手術をしたことのないような医師に開腹手術をさせるのと同じようなことが発生することも考えられます。

 こうした閣議決定に至った基本的な議論を見ていると、現実の弁護士がどのような仕事をしているか全く知らない学者や経済人の勝手な意見ばかりが目立ちます。法律家がどのような仕事をしているかも知らない人間が法律家のも未来を決めてせっかく司法試験に合格しても就職もない…。そんなゆがんだ構造が今生み出されようとしています。

 なお、私は弁護士は勤務弁護士として、3年から5年経験を積まないと、一人前にはならないと考えています。修習が終わった時点で全ての事件が出来るなどというのは、法律の現場を知らない人たちの幻想であって、弁護士とは、職人のようなもので、ある程度の時間と事件をする中で鍛えられていく職業なのです。

 国家100年の計は日本にはやっばりないんだなあ。

|

« 弁護士会の活動(当番弁護士など) | トップページ | 司法試験合格者大幅増員論は実体がない »

コメント

 社会の受け皿がないのに、弁護士の人数だけ増やすのはどうにも方針が分かりませんね。

投稿: LOST | 2006年4月24日 (月) 20時49分

私も先生と同じ意見です。司法試験合格者1500人でも、就職困難者が生じているのに、3000人近い方が誕生する2007年はどうなるでしょう。
 日弁連がここまで無力な組織とは思いませんでした。
 相次ぐ弁護士の不祥事などにより、優秀な方が弁護士を希望しないような時代にならないよう願うばかりです。
 

投稿: しまなみ法律事務所(愛媛弁護士会所属) | 2006年5月 7日 (日) 15時44分

しまなみ法律事務所さんコメントありがとうございます。
日弁連理事会は、処理すべき課題が多すぎて、なかなか手がつかないのだと思います。その合間にいいようにやられてしまう。
この問題を活性化させるには、地方から中央へ意見を上げていく必要があると思っています。
先生ももしよろしかったら、法曹人口問題を考える会(私の事務所のホームページからリンクが張ってあります)の設立趣旨書をごらんいただいて、会に参加していただければ幸いです。

投稿: 中 隆志 | 2006年5月 7日 (日) 22時54分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 司法試験に合格しても就職がない時代がもうすぐやってくる:

« 弁護士会の活動(当番弁護士など) | トップページ | 司法試験合格者大幅増員論は実体がない »