占有移転禁止の仮処分
独立の少し前に、暴力団が占拠している土地の「占有移転禁止の仮処分」をしたことがあった。暴力団の占拠前、依頼者がある男に土地を貸したところ、その男はプレハブを建てたことから契約違反ということで、明渡を求めてボスが調停を出し、その調停で3年間貸した後撤去することとなっていた。
ところが、その男は賃料も支払わず行方不明になり、その後に、「出ていった男に貸金があるから使わさせてもらう」として(まあ嘘でしょうし、貸金があるからといって、使える理由はどこにもないのですが)どやどやと暴力団が入り込み、産業廃棄物処理の残土置き場にされてしまった。警察に相談してもどうにもならないので、明渡を求めるしかないということになった。
ところが、ある男との間の調停条項には、「何回以上賃料相当損害金の支払が遅れたら、ただちに明け渡す」という条項がなかった。この条項がないと、原則期限までは明渡を求められないことになる。
通常入れるのになんで入っていないのかとボスに聞くと、「調停の時なあ、そいつ遅滞したら明け渡すという条項入れるのものすごい嫌がってなあ。調停の席で大げんかになったんや。依頼者がもうええいうたし、しゃあないしまとめるために抜いたんや」とのことであった。
そういう時こそ弁護士が頑張らないといけないのではないかとも思ったが、これこそがボスワールドなのでぐっとこらえて何も言わず、後は「何とか考えます…」と言ってこれはまあ何とかうまいこと主張して切り抜けた。
次に、現在暴力団が入っているというのであるが、そのまま現在入っている人物(仮にAとしよう)相手に呑気に訴訟をしたら、判決が出る頃には全く別の人物(仮にBとしよう)が入り込んでいたとすれば、判決はAに対して出るものだから、Bが中に居たら追い出すことが出来ないのである。
そのため、このように暴力団が占拠している場合には、「占有移転禁止」の仮処分というのを出して、Aは他の人に占有を移してはいけませんよという決定を裁判所に出してもらい、仮にAがBやCに占有を移しても、Aに対する判決でもって明渡が出来るようにするのである。
いざ仮処分をもらって現地に仮処分執行(裁判所の係りの人に札を貼って貰うのである)に行くと、いるわいるわ明らかに暴力団が。上半身裸で筋肉ムキムキのお兄さんとか、クスリをやっていそうな暴力団らしい人等々。産廃の山々。ひえー。
仮処分執行には、事務所に入り立てで初々しい頃の私の後輩のF橋K子弁護士も連れて行ったのであるが、初期の頃の仕事としては刺激が強かったのではないかと思いきや、彼女はスーツに産廃の匂いがつくのを嫌がっていて、暴力団は全く気にしていないのであった。うーむ。
その後、暴力団からの文句の電話も入るのを無視しながら、これは後日訴訟で私が勝訴判決を取り、明渡もさりげなくボスが私にやらせそうになったので、これまたさりげなく「判決まで取ったのですから」とさりげなく置いてきたのであった。
思い出せば、色々事件をやってきたもんである。
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コメント
ほんとうに弁護士の仕事にはいろいろあるんですね~。午前中には企業の契約書のチェックなんていうきれいな仕事(これはこれで大変ですが)をしてたかと思うと,午後にはこういう怖いお仕事をするなんてこともあるでしょうし。
しかし,ボス先生がほんとにいいですね(笑)。中先生のボスへの愛情が伝わってきます。ボス先生も,想像できないくらいいろんな事件をやってこられて,豊富な知識や経験を蓄えてこられたのでしょうね。
投稿: M野弁護士 | 2006年12月 2日 (土) 09時52分
M野弁護士、コメントありがとう。
私はどろどろした事件ばかりやってきたので、綺麗な仕事はほとんどありません。
ライフワークである消費者被害事件と犯罪被害者支援も、「綺麗」な事件ではありませんし…。
私のスタイルはそういう事件をやろうということで弁護士生活を通じて固まってきたので、それでよいとも思っていますが。
投稿: 中 隆志 | 2006年12月 3日 (日) 21時14分
僕も将来は法律の理屈だけではなくて,人間力が問われるような仕事を中心的にやっていきたいです。そういう仕事のほうが,僕が以前から持っていた「弁護士」という仕事のイメージにフィットします。
投稿: M野弁護士 | 2006年12月 4日 (月) 07時30分
M野弁護士なら大丈夫だと思います。
金融機関の為に仕事をしても、消費者金融などにお金が流れたりしていますしね…。
企業法務ばかりしている弁護士は、本当に世の中のためになっているのか考えることとかはきっとないんでしょうね。
投稿: 中 隆志 | 2006年12月 7日 (木) 18時34分