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2007年9月23日 (日)

刑事処罰というもの

 ある人が刑事事件で処罰されるためには、まず、ある人が犯した行為が法律によって「犯罪である」と規定されていなければならない。どのような行為をしたら犯罪になるのかということを「構成要件」という。構成要件が何かというのは法律の解釈の余地があるのであるが、そもそも一般的に見て、「それは処罰されるべきでは」と思われたとしても、法律で規定がなければ処罰はされないのである。法律で違法とされていない薬物は吸引しても処罰の対象とはならないのである。

 そして、その次に、ある人の行為が犯罪に該当するとして、その行為が「違法」であることを要する。たとえば正当防衛は法律で違法とされていないので、正当防衛と評価される行為によって相手を傷つけたりしても違法とはならないので処罰はされない。法律の中には、この正当防衛の条件を緩和したものがある(たとえば、泥棒が自宅に押し入ってきた時には、正当防衛の条件は緩和されている)。

 次に、ある人物を処罰する場合に、責任が要求されるのが法律である。ある人物を処罰するためには、その人に対して責任非難がされなければならないためなどといわれる。
 しかし、この考え方は、被害者からすれば全く納得が出来ないものとなろう。最愛の人を殺された遺族などからすれば、被告人に責任能力があろうがなかろうが、「殺された」という事実には何ら変わりがないからである。これは、刑事処罰がどこに向いているかということと関連するように思われる。

 刑事処罰の基本を被害者の応報(ハンムラビ法典の目には目を、歯には歯を)というところに求めると、犯罪者の責任能力は問題とならないであろうし、犯罪者側の事情は一切考慮することなく、刑事処罰をすべしということになるであろう。この場合、被害者個人が報復することを法が禁止している以上、国家が被害者に成り代わり刑罰権を発動するという側面が重視されれば、責任や被告人の情状は問題とならず、もっぱら結果のみによって犯罪が処罰されることになる。もちろん被害者に対して示談などが成立していれば、その点は考慮されうるではあろう。

 これに対し、刑罰権の発動というものが、当該犯罪者その者の更正や教育にあることを重視する立場(特別予防という。)からは、当該被告人の責任能力や情状は最大限考慮すべきということになるであろう。一方、こんな罪を犯せばこのように処罰されるという情報を世間に与えて世間一般の人が犯罪を犯さないようにしようという予防効果を重視する立場からは(一般予防といわれる)、犯罪行為と処罰との間の判断過程の明確化が要求されるであろうから、個々の責任がどうであったかというのは、あまり重要視されないのではないかとも思われる。

 責任能力うんぬんというのは極めて難しい話であり、私は学者でもないし、これはブログであるのであまりに専門的な話は避けたいと思うのであるが、刑事処罰の本質を何に置くかによって、責任能力をどう考えるかは変わってくるように思われる。私が何作か著作を読ませていただいている日垣隆という作家は、責任能力は不要だということを常々著作の中で語られている。

私は犯罪被害者支援センターの理事も務め、弁護士としてのライフワークの一つに犯罪被害者支援を掲げているので、被害者の声を聞くことが多いせいかもしれないが、刑事処罰の根本はやはり被害者のある事件では応報であると思うのである。

 最愛の人が殺された時に、被告人に死刑を望むことは、当然の感覚として、これを否定することは出来ないであろうし、刑事事件の処罰の基本はやはり「結果」であると思われるので、当該被告人の情状や生育歴などをあまり重視して量刑を決めることは望ましい方向ではないように思われる。
ただ、この考えを推し進めると、過失犯と故意犯も、「結果が同じ」であれば量刑は同じという結論になりかねが、その点との調整をどのようにすべきかは難しい問題である。

 被害者と接する機会も多い私などは、被告人の命をもって償ってもらうしか、いや償ってもらってもそれでもあまりある犯罪というのは、やはり存在するとしかいえないと思うのである。
 死刑にされなかった被告人は、無期懲役になっても仮出獄をしてくるが、これは税金で彼らを養うための費用がないためである(ただし、いらないところに予算をつかわなければ、全然終身刑の導入は可能である)。そして仮出獄してきた受刑者による再犯も一定数存在する。これは国家が国民の身体生命を守る義務を放棄しているといわれても仕方がないのではなかろうか。

 重罪化反対と気楽に叫ぶ人達は、そのために失われた命や被害を被った人達に対して真摯に責任を問えるのであろうか。その意味で、死刑の選択は当然として、私は以前から生涯刑務所から出ることのない終身刑の導入を述べてきているのである。

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