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2008年7月24日 (木)

法曹人口問題の議論

 最近、新聞報道で法曹人口問題についての議論がされている。

 中々難しいのは、弁護士が増えたとしても、今の医療の分野と同様、へき地や困難な事件を受ける担い手が増えるとは限らないことである。
 競争社会になり、費用が低廉となるという意見もあるが、「安かろう、悪かろう」という傾向になることだって考えられる。自由競争をすればよりよい方向に行くというのは、アメリカでは既に破たんした説でもある。

 弁護士が増えすぎれば、費用的にペイしない事件や、公益的な仕事は誰もしなくなるだろう。そういった仕事をするよりも、会合に出て人脈を拡げるとか、ホームページを充実させるとか業務拡大に時間を割くことは容易に想像出来るからである。

 町村官房長官が、日弁連の意見書を批判していたが、中身も見ていない批判であることは丸わかりである。全く議論がかみあっていないのである。
 そのような人間が官房長官の地位にあるということじたい、日本の政治がお寒い状態であることの証左であろう。
 実体を把握していない意見を聞くと、弁護士は霞を食べてでも生きていけるというのであろうかとも思ってしまう。

 紛争のただ中に入っていく仕事であるから、相手方や依頼者から恨まれることもあり、業務妨害を受けた弁護士は意外なほど多い。どれだけ依頼者のためを思ってしても、悪態をつかれることもある。
 所得についても、莫大な収入がある弁護士もいるが、一流企業に勤務している同世代の方がよほど取得がある弁護士の方が多い。しかも自由業であるから老後の保障は何もないのである。一般的にいうと、医師の方がはるかに高所得である。
 普通の所得が得られる程度の職業にはしておいてもらわないと、益々なり手がいなくなると思うのであるが、町村官房長官の言いぐさだと、「赤字になっても弁護士はやれ。世間一般よりも低所得になったらええやないか」といわれているような気もする。
 同世代が遊んでいる時に、1日8時間から10時間の勉強を数年して、司法試験に合格する為にはそれなりのインセンティブも必要だと思うのである。
 所得も低所得で、過当競争状態で潰れる弁護士は潰れろとか突き放されると、かえってこれから勉強しようかという人は意欲がなくなるのではないか。

 1週間お金がなくて毎食カップヌードルを食べていたという東京の若手弁護士の話をどこかで読んだ。
 もちろん自由業であるから経営の為の努力は必要であろうが、あまりにも過当競争状態におかれると、おかしなことをする弁護士は多数現れるだろう。
 国はそれでもいいというのであろうか。まあ、彼らは弁護士を依頼するとしても、それなりの紹介者のツテもあるだろうから、心配はいらないか。

 時々、驚くようなひどい弁護活動をしている弁護士に出会うことも事実であるが、依頼者の方はそれがひどいかどうか判断する術がなかったりもする。前がひどい弁護士で、次に依頼を受けた時に普通に業務をしていると、「前の先生と全然違いますね。話しも聞いてくれるし、報告もしてくれるし、どうしたらいいか相談してくれるなんて感激です」などといわれることもある。
 これらは当たり前の話であり、たいていの弁護士はそのように業務をしているはずであるが、中にはひどいのもいるということである。

 結局最後に割を食うのは国民である。

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コメント

弁護士って人間の体における能力をすべて使い切るような仕事ですねー(>c<)!!友達が法科大学院に行ってますが、勉強がハードなのか日に日にやつれてきています。私は大学受験の時に貧乏でスーパーの試供品のおそうざいを食べてました。

投稿: ミッフィー | 2008年7月25日 (金) 10時00分

 司法試験の勉強で潰れていては実務家になってからは保たないですねー。実務家になってから精神を病む人も結構いますから。
 貧乏暮らしをしたことがあるというのは強みですね。
 今は裕福な家の司法修習生が多くて、ガッツがあったり、修羅場をくぐったりという経験がある人が減ったように思います。

投稿: 中 隆志 | 2008年7月25日 (金) 17時22分

はじめまして。

弁護士の方のブログということで興味深いと思いましてカキコミさせていただきました。

現在私は京都市内の大学に通っていまして、所謂ロースクール受験生です。

法曹人口についてのニュースは、大学側や受験生にも死活問題ですよね。

今はやるべき事をやるだけだと自分に言い聞かせて毎日勉強するしかありません。
コメントにも書かれてらっしゃいますように、受験勉強で潰れていては実務家になってからやっていけませんよね。

早く一人前の法律家になりたいと思います。

ブログ更新楽しみにしていますね!

投稿: Can | 2008年7月28日 (月) 00時30分

実務家になって精神を病む人もたくさんいます。

受験勉強も大事ですが、最近修習生と話をしていると、勉強の前に「人間としてお前はどうやねん」と思う人に出会うことが多くなってきたような気がします。

就職についても、まずコミュニケーション能力というか対人折衝能力のようなものを我々弁護士は重視するのですが、法的なことは知っていても、そのあたりの能力がないと採用の一次試験にら通らないでしょう。

様々な体験も時間のない中でされることをお勧めします。

投稿: 中 隆志 | 2008年7月28日 (月) 14時23分

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