読書日記10月5日
「黒地の絵」松本清張。新潮文庫の傑作短編集の一つ。妻をアメリカの黒人部隊に輪姦された男の黒い執念を描く表題作ほか、作者が描く人間の心の闇は若手弁護士にとっても事件を解決していく上で参考になるだろう。闇のない人間はいない。
「不機嫌な職場」なぜ社員同士で協力出来ないのか 講談社現代文庫。本屋で表題作に惹かれて購入。日本社会の働き方が専門化する一方で、自分の分野しか仕事をしたりしない人が多くなったり、他者とのコミュニケーションがはかれない職場が増えているという。職場の建て直しに成功したいくつかの事例を元に、そのヒントを与えてくれる本である。法律事務所でもあてはまるところがあり、大いに参考となった。
「最後の伊賀者」司馬遼太郎。 司馬の短編集。私は日本酒が好きなのだが、その日本酒の「呉春」という名前の由来となった天明の画家を描く作品と、秀吉と一度であっただけで、秀吉に殉じて大阪城に入城した「けろりの道頓」など。ちなみに、大阪の道頓堀は、このけろりの道頓が掘ったので有名である。
「憎悪の依頼」松本清張。短編集。過去に愛した女性の面影を長年思い続けた政治家の思いを描いた「大臣の恋」。人間の一方的な思いが、時にいかにこっけいかを描いている。家族のために正義を働いたと信じて刑に服し、全く反省の色のない女囚。その家族はその女囚をどう見ているのか。感謝しているのか。それぞれの認識のズレを描いた「女囚」など。
「ペルシャの幻術士」司馬遼太郎。司馬のデビュー作。司馬のデビュー作は不評であったが、海音寺潮五郎だけは、「司馬君は天才かもしれない」とその才能を高く買っていた。作品的にはやはり後の作品と比べて稚拙な感はあるが、司馬の文章のリズムはデビュー作から変わらない。後に、司馬は「梟の城」で直木賞を受賞し売れっ子作家になるが、吉川英治が梟の城の受賞に反対したところ、海音寺潮五郎は、「若き頃の吉川英治のような才気を感じる」と強硬に主張して受賞させたという逸話がある。司馬は海音寺によって見いだされた作家ということになるが、海音寺の方が、吉川英治より慧眼であったということであろう。
「風の武士」(上)(下) 司馬遼太郎。幕末を舞台に描いた伝奇小説。これも初期の作品である。司馬作品に出てくる主人公は、己の中の信念に従い、この信念を曲げさせられるくらいなら死を選ぶというタイプが多いが、世の中では中々信念を貫くことが出来ないことが多いことから、そうした司馬の作る主人公に皆惹かれるのであろう。
「眼の気流」松本清張。短編集。中年男の悲哀と嫉妬を描いた表題作ほか、ここでも作者の世界に、人間の闇に引き込まれる。人間や社会というものを知らない若手弁護士は、こうした作品を読んで少しでも自分の経験が足りないことを補うべきであろう。
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