読書日記9月3日
「破船」新潮文庫。吉村昭。
穀物が採れない海辺の村。何年かに一度海が荒れた時に流れ着く「お船様」に積んである荷(米やその他の珍しいもの)は彼らにとっては天からの授かり物であった。時には船員を打ち殺してでも彼らは荷を奪う。生き抜くために、ここまでのことをするのかという暗い暗い話。
しかし、二年連続で流れ着いた「お船様」には恐怖が積載されていたー。
とてつもなく暗い暗い話。しかし、モノがあふれている今日こそ、こうした物語は読まれるべきである。圧倒的な筆力で、最後まで一気に読み切ってしまった。
この作者の作品は、「破獄」と「熊嵐」を読んだだけであったが、これからは他のものも読んでみようかと思った。
「武将の運命」朝日文庫、津本陽。
私の敬愛する作家の一人である津本陽が戦国武将について語ったエッセイ。信長が短気とされるのは間違いである等々、平易な語り口で鋭いエッセイがつづられる。
「司馬遼太郎が考えたこと 6」新潮文庫。司馬遼太郎。
机の上で行方不明となっていたものをこのたび発見して続きを読んだ。
おもしろかったのは、「長州人の山の神」と、「ゴッホの天才性」と勝海舟について語ったエッセイ。
勝海舟のスケールは龍馬をしのぐと私などは考えている。龍馬も勝海舟と出会っていなければ後世にこれだけ名前を残さなかったであろう。勝海舟については、津本陽の「私に帰せず」がいい。
明治陸軍で圧倒的な権力を持っていた山県有朋やその他明治の元老が頭が上がらなかった長州のある人物を描いた「長州人の山の神」もおもしろい。尾籠な話だが、山県有朋の細君は、この人物の大便の処理までさせられている。
ゴッホの絵は私は理屈抜きに好きで、事務所にもポスターをいくつか飾っていて、ゴッホの作品が収められた画集も持っているのであるが、実のところその人生についてあまり詳しくは知らなかった。絵を好きというのに、その作家の人生はあまり意味を持たないと思っていたからである。
司馬が書いたゴッホの天才性を読んで、背景を知るとまた絵も変わって見えてくるものだという思いを新たにしている。
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