区役所の無料相談
「出来るだけ適切なアドバイスをさせて欲しいので、その前に少し私の方で質問させていただきます。よろしいですか。」
「はい。」
山名恵子は少し身体を固くしたようだった。弁護士に相談するのは初めてなのかもしれない。私は、こういう場合、少し緊張を解くために、まずは関係のなさそうなところから聞くということにしていた。
「区役所の相談に行かれたということですが、窓口に行かれたのですが、それとも法律相談を受けられたのですか。」
「区役所でやっている無料法律相談に行きました。山科区の。」
私の読みは外れた。無料法律相談に行っていたのか。
「この件で行かれたのでしょうか。」
「はい。そうしたら、時間が短いし、弁護士を頼んだ方がいい事件だと言われて、インターネットで調べて来ました。白髪頭で、声が酒焼けしているような方で。。。痩せておられた先生です。あ、すいません。余計なことを。」
私はこの女性はこういう洞察をする女性なのかと思った。相談票の彼女の住所を見ると、住所は山科区だった。その特徴は、ひよっとしたら私の事務所に向かいに事務所を構える、立村利彰弁護士かもしれない。「山科区は相談者が多いからしんどい。真田君、かわってくれや。」と、こないだ焼酎を飲みながら言っていた気がする。もちろん交代する理由はないので、「なんで変わらないといけないんですか。」とにべもなく断っておいたが・・・・。まあ、この際それはどうでもいい。
「いえいえ、いいんですよ。では、重複するかもしれませんが聞いて行きます。まず、結婚されたのはいつですか。」
「平成○年の○月○日です。」
彼女は今30歳であるから、今から5年前の結婚ということになる。
「これは恋愛結婚ですか。」
「はい。」
「配偶者の方は名前はなんと言いますか。」
「山名宗男です。」
「年齢は今いくつですか?」
「私より5歳上ですから35歳です。」
「どういったきっかけで交際を始めたのでしょうか。」
私は何の気なしに聞いたのだが、山名恵子は一瞬考えるようにして、「あの。。。それは言わなくてはいけないのでしょうか。」
と聞いてきた。
「いや。特に答えたくなければ結構です。交際していた頃から暴力の兆候があったかどうかをお聞きしたくて聞いただけですから。配偶者の方の職業は何ですか?結婚された時と今と同じですか?それとも変わっていますか?」
「医者です。結婚した時は勤務医でしたが、今は個人で診療所をしています。夫の父が急死したので、跡を継いだので。」
「ああ、なるほど。」
何がなるほどが分からないが、適当なあいづちを打つのは我々弁護士の仕事では重要である。
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