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2010年11月22日 (月)

ビニール製のイスに座る相談者

 「ああ、ドアは閉めてくださって結構ですよ。そちらのイスにおかけください」
 私はそういうと、入り口から手前のイスを右手で軽く指して、私もイスにそっと腰掛けた。
    私の所属する弁護士会のイスは決して座り心地のいいものではない。まあ正直なところ、相当な安物であった。安物のビニールが張られていて、色も灰色で、滅入った気分で来た相談者はそのイスに30分は座らされることになる。出て行く頃には、自分の期待した答えを聞けず、座り心地が悪いイスによって、腰痛持ちの人は、腰痛が悪化するかもしれない。
    予算の都合からこの程度のイスしか用意出来ないことはやむを得ないのは私も弁護士会の役員をしたから知っている。しかし、相談に来られるのであるから、高級なイスとはいかずとも、もう少し座り心地のいいイスはないものであろうか。パイプイスに毛が生えたような代物で、余計に相談者の不安をあおるのではないだろうか。ビニール製のイスで不安をあおる弁護士会。人権活動の砦とこれでいえるのだろうか。
    そんな余計なことを一瞬考えながら、私は相談票を見ながら話を始めた。
    私は最初に書いてあることを要約することにしている。
    「山名恵子さんですね。離婚のご相談で、配偶者からDVを受けていると受付のものから聞きました。ここにもそう書いてありますが、そうしたご趣旨で相談に来られたということでよろしいでしょうか。」
    「はい。」
    山名恵子の声は、想像していたよりも低い声だった。ただ、この日本的な美女にはこうした落ち着いた声がふさわしいのかもしれない。
    「配偶者から暴力を受けておられるということで、離婚されたいというご相談ですか。離婚を決意されて来られたのか、そのあたりはまだ考えがまとまらないのか、それはどちらでしょうか。」
    「は・・・はい。離婚については決意しています。ただ、どうしたら離婚出来るのかが分からなくて、困ってインターネットで探して、区役所の相談があるのを見つけて相談に行って、弁護士会に行った方がいいと言われました。今日は先生は、あ、真田先生とおっしゃるんですね。真田先生は、本当は離婚の相談の担当日ではないと受付の女性の方から聞きました。担当ではないのによろしかったんでしょうか・・・。」
    彼女はちらりと相談室の机の上の私の名札を見てそう言った。名乗るのを忘れていたようだ。
    「あ、名乗るのを忘れていて失礼しました。弁護士の真田といいます。担当かどうかということは、それは気になされないでください。あくまで弁護士会側の都合ですから。お困りの方がおられたら、出来るだけ対応するのが弁護士会、そして弁護士の役割ですから。離婚については決意されているということですが、何度か配偶者の方と離婚について話をされたことはあるのですか。」
    「はい。三回ほど話をしたのですが、夫は絶対に離婚しないと言っていて、離婚するくらいなら『おまえを殺して自分も死ぬ。』というのです。それで、私、殺されるのではないかと怖くなって、昨日の朝、夫が寝ている隙に手紙を書いて逃げ出してきたんです。」
    なるほど。夫の方が執着している訳だ。これだけの美ぼうだから、夫が執着するのも分からないではない。私は、適切なアドバイスをするために、いろいろと質問をすることにした。中堅弁護士、真田隆一郎。適切な質問をして、適切な法的アドバイスをする男。ただし、離婚のアドバイスをするというには、現在独身ではあるのだが。

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