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2010年12月

2010年12月27日 (月)

弁護士の依頼の仕方

      しかし、その目の表情は一瞬で消え、最初に私が声をかけた時のきまじめそうな目に戻っていた。外気は既に37度を越えている真夏日であり、この相談室もクーラーがあまり効いておらず蒸すような熱気と湿気がこもっているので、私が見間違えただけなのかもしれない。私はあまり深く考えずに、弁護士を依頼する場合、既に知り合いの弁護士が居ればその弁護士に相談してみることもあるし、知り合いがいない場合などにはこの法律相談で聞いた弁護士に依頼することも可能であること、ただし、弁護士の方も引き受ける自由もあるので、必ず依頼を受けるというわけではないこと、逆に、山名さんの方で今日相談した弁護士が気に入らなければ依頼するかどうかは自由であること、その場合、弁護士会で紹介という制度もあるし、特にDV事案であれば、専門の名簿もあること、ただし、この紹介の場合も、必ず弁護士が見つかるわけではないことを説明した。これは、法律相談で弁護士の依頼をするにはどうすればよいかという質問を受けた時にするいつもの説明であった。
      山名恵子は、その説明を聞くと右手をほおに当てて、首をかしげて少し考えるようにした。目線を下に落としているので、目の表情は見えない。まさか、目の表情を見るために、下からのぞき込む訳にもいかないだろうし、私自身、目の表情を特にみたいと思っている訳でもなかった。
      私の中で、相談を聞くうちに、彼女には何かがあるという思いが強くなってきていた。それが、何であるかまでは私にも分からない。
      これは、それなりに経験を経た弁護士であればみな共有する感覚であろうとは思うが、何となくいやな感じがするのである。しかし、彼女の話のどこにも不審な点はないし、今前で小首をかしげている山名恵子という女性に邪気のようなものも感じられない。しかし、何かが私に嫌な感じを抱かせていた。
      一瞬私がたまに事件の依頼を受ける時に感じる嫌な感じを受けたということを考えている間に-もちろん私は無表情のままだが-山名恵子は次の質問を考えついたようであった。
      「弁護士さんを依頼するとすれば、費用はどの程度かかるのでしょうか?」
      弁護士を依頼する者にとって、もっとも気になる点の一つだろう。同じ能力があり、同じ業務をしてくれて、同じ結果が出るのであれば、依頼人にとっては費用が安い方がいい。また、あらかじめ費用が分かっていなければ、安心して弁護士を依頼することなど出来ないであろう。

2010年12月20日 (月)

山名恵子の目

    「まずはお互いが裁判所を利用せずに離婚とその条件について協議して同意することが基本です。これを協議離婚と言いますが、裁判所を利用することなく、弁護士が間に入って交渉によって協議離婚を目指すということから始めるのが基本かといえます。ただ、交渉ですので、任意の話し合いですから、強制力はありません。ですので、配偶者の対応からして、任意の話合いではとてもまとまりそうにないと考えられる時は家庭裁判所に調停を出すことになります。相手方の住所地が基本となります。住所地は山科区ですので、出町柳の近くにある京都家庭裁判所で調停を起こせます。ただ、この調停は裁判所が間に入るとはいえ話し合いですので、まとまらない時もあります。話し合いですので、出てこなくとも制裁はありません。調停で話がまとまればよいのですが、まとまらない場合には、裁判を出して判決をもらって国家権力によって無理矢理に離婚をさせる、ということになります。もちろん、一定の事情がないと離婚は出来ませんが、山名さんのお話を前提にすると、DVがあったということですから、離婚を山名さんから求めて離婚が認められないということはないと思います。」
     私は、いつもしている説明を時折山名恵子の方に視線を移しながらしていった。依頼者と話をするときは、ずっと目を見ているのもよくないが、全く目をみないのもよくない。依頼者の方は自分に興味がなく、手もとのメモ用紙に興味があるのかと思ってしまうだろう。また、話し方も、一文があまり長くなってはいけない。いつまでも文が終わらず話をする人がいるが、あれは聞いていて理解しづらい。
      私はそうしたことを特に意識せずにしていたようだが、以前に異業種交流会の勉強会で話し方講座の講師からそのような話を聞かされてから、少し意識するようにしていた。
      山名恵子は、私の説明を聞いて手もとのピンク色の手帳に小さい字で時折うなづきながらメモを取っていた。
      私はそのほか、山名恵子の話を前提にすれば、相手方に慰謝料請求が出来るということや、夫婦で築き上げてきた財産があれば財産分与を求めることが出来ること、ただし割合は事案によって異なること、別居している間は婚姻費用(簡単にいうと生活費)の支払いを求めることが出来ることなどを説明した。 一通りの説明が終わると、山名恵子は、「慰謝料はこれだけひどい目に遭わされているのですから、数千万円とか取れるのでしょうか?」
      と、聞いてきた。
      「数千万円という慰謝料が日本で認められたケースは私も知りませんし、経験もありません。ただし、早くに離婚したい夫が、早くに離婚するために相場よりも相当大きいお金を支払ったケースはあります。」
      という回答をした。
      山名恵子は、その点を理解をしたのかは分からないが、小首をかしげて、「弁護士さんに依頼をしようとしたらどうしたらよいのでしょうか。」
      と聞いてきた。
      小首をかしげた時の彼女の目を、私は一瞬、高貴な猫のようだと思った。前にいる私を見ているようで見ておらず、男は全て自分にとって上から見下す存在であるというような目である。

2010年12月13日 (月)

DV夫の特徴

    「かなり体重差がありますね。その後の暴力の状況は?頻度はどのようなものでしたか?」
    「謝ってくるので、私も許してしまうんですが、その後は2~3ヶ月に一度暴力がありました。平手で顔をはたかれたこともありますし、おなかを蹴られたこともあります。」
    「DV男性というのは、暴力をした後は反省して、人並み以上に優しくなるという傾向があると言われていますし、私の経験上もそうです。ところで、直近で暴力を受けられたのはいつでしょうか。」
    「一週間前です。ここ一年は、暴力を受けるたびに別れたいということを言い出していたんですが、そうすると必死に謝ってくるので、私もいけないんですが、決断出来なくて・・。一週間前にも別れ話を切り出したんですけど、突然怒り出して、殴られて、身体を掴まれて、投げ飛ばされました。そのときはさすがに後のことがあると思って、病院に行きました。」
    「診断書はありますか。」
    「はい。ここに持ってきています。」
    そういうと、彼女は横のイスにおいていた鞄からクリアーファイルを出し、その中に挟んでいた診断書を出してきた。
    診断書には、左顔面打撲、胸部内出血、腰部打撲により、2週間の加療を要する見込みとの記載がされていた。
    「まだ痛みはありますか。あと、暴行を受けた直後の写真とかは撮られましたか。」
    「はい。自分で携帯で撮りました。携帯からパソコンにメールで送って、打ち出した写真も持ってきています。まだ、胸の内出血は青黒くなっているんです。見ていただけますか。」
    彼女はそういうと、クリアファイルから写真を取り出して見せようとした。
    私は、手で軽く制しながら、「あ、今は写真までは結構です。必要があれば見ますので。」
    と言った。いくら仕事とはいえ、真夏の真昼から、こんな密室で、彼女の胸のあたりの写真を見せられてもその後の相談がしづらいかもしれない。必要があれば見ることにすればいい。
    「加療2週間ということですが、まだ痛みはあるのでしょうか。」
    「はい。痛みはあります。日々ましにはなっていくようですけれど。」
    「そうですか。それで、どうされたいとかという考えがおありでここに来られたのか、それともどうしたらよいか分からないのでここに来られたのかという点はどうでしょうか。」
    「はい。。。私としては離婚をしたいのですが、夫とこのまま直接やりとりしていても前に進みそうもないので、区役所で聞きましたら、やはり弁護士さんに依頼をされた方がいいということでしたので、依頼をしたいと思ってきました。」
    「なるほど。では、離婚の依頼を受けた場合の弁護士がどのようにするかをご説明しましょうか?」
    「はい、お願いします。」

2010年12月 6日 (月)

DV夫の特徴

    「それで、お子さんはいらっしゃいますか?」
    「おりません。あ、ただ、作ろうとしなかったという訳ではありませんが。」
    「なるほど。それで、暴力は結婚してから始まりましたか?交際していた間にあったことはありますか?」
    「交際期間はありませんでした。結婚するまではこれ以上優しい人はいないというくらい優しい人でした。」
     これはDV事件にある男性の典型である。結婚するまではこれ以上ないくらい優しいが、結婚と同時か、あるいはしばらくして暴力が始まるのだ。
     女性に暴力を振るわない男性は絶対に暴力は振るわない。逆に、暴力を振るうタイプも、激情に駆られてごく希に暴力を振るうタイプはあるが、これは少数で、女性に暴力を振るえる男性というものは、日常的振るうというのが私のこれまでの経験から得た知識であった。
    「そうすると、結婚されてから暴力が始まったんですね。結婚してからどれくらいの時に暴力がありましたか。」
    「半年くらいしてでした。仕事のことで、夫に意見をしたのですが、それが非常に気に入らなかったようで、人が変わったみたいになって。。」
    「そのときの暴力の態様はどんなものでしたか?拳で殴られたとか。平手で殴られたとか。あるいは足で蹴られたとか。あと、暴力を受けた部位はどちらになるでしょうか。」
    「はい。拳で顔を一度殴られました。でも、殴ったあと、夫はすぐに必死で私に涙を流して謝ってきて、『仕事のことでイライラしてしまった。本当に申し訳ない』と言いましたので・・・。」
    「病院は行かれたのですか。怪我はされなかった?」
    「行きませんでした。顔が腫れましたが、数日で治りました。」
    「失礼ですが、あなたの体格は?あと、配偶者の体格はわかりますか。格闘技をしていたとかどうかとかは。」
    「私は身長163センチメートルで、体重は45キロです。夫は身長173センチメートルで、体重は85キロです。格闘技とかは経験はないと思います。学生時代にラグビーはしていたそうですけど。」
     夫の身長に比べて体重が重いので、肥満体型なのだろう。私はサッカーで鍛えているため、20歳の時と今も体型は変わっていない。またどうでもいいことを考えてしまった。

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