優子
リビングに戻ると、ソファに寝ていた女性は、ソファの前で立って私の方に顔を向けていた。ややぼんやりとした目で、私の方を見ている。小太郎が、その足下で丸くなってふさふさのしっぽの毛の中に顔を突っ込んで寝ている。もう深夜であり、そろそろ老境にさしかかる小太郎は目が開いていられないのだろう。
その女性の身長は155センチメートルくらいだろう。私より身長はかなり小さいせいで、私を少し見上げるようにしている。下着をつけていない胸のふくらみに目が行ってしまうのは男の性だろう。彼女は腕を上に伸ばして大きく伸びをして、小さくあくびをした。
「隆(りゅう)さん、帰ったんやったら、起こしてくれたらええのに。また飲んできたんやろ。」
「ああ。よく寝ていたから。」
「韓流のドラマ見ててんけど、おんなじような筋やから、寝てしもてた。」
「そうだろうな。私からしたら、何がいいのかわからない。」
私がそういうと、彼女は小さく笑った。寂しそうな笑顔だ。
私は冷蔵庫から無糖の紅茶のペットボトルを取り出して一口飲んだ。紅茶のさっぱりした味が喉を通り過ぎていく。酔いがだいぶ回っていたが、紅茶を飲んで少し頭がすっきりした。
彼女は両腕を後ろに回して、ストレッチをするような格好をした。そのせいで、下着をつけていない胸のふくらみが強調され、胸の形があらわになった。
私はそれを横目に見つつ、ソファの下の下着に目を移して、
「下着は脱ぐなっていってるだろ」
と言った。
「下着脱いでたら、隆さんが興奮するから?」
と言って彼女は笑った。
「・・・酔ってるな」
「酔ってますよお。ちょっと隆さんのウイスキー飲んだだけやん。飲みにも行けず、家事を家でしているもうすぐ30歳の独身女性がウイスキーちょっと飲むくらいええやんか」
「いや、飲むのが悪いと言ってる訳じゃない」
「そう聞こえるもん」
そういうと、彼女はぷっと頬を膨らませた。
その表情を見て、私は彼女、そう、優子に対して劣情を感じなかったといえば嘘になるだろう。
ただ、私には彼女を抱きしめられない理由があった。
亡くなった妻の由紀だけが原因ではない。
そう、彼女は私の亡くなった弟の婚約者だった女性だからだ。
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